執筆者:弁護士 石田真由美
(目次)
1.フリーランス保護法について
2.フリーランスに業務を委託する事業者に求められる対応等
3.育児介護等と業務の両立に対する配慮の具体的内容
4.ハラスメント対策に係る体制整備の具体的内容
5.まとめ
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先日(2024年11月1日)、フリーランスが安心して働ける環境の整備を図ることを目的としたフリーランス保護法(正式名称は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。)(以下、本記事において「法」といいます。)が施行されました。
業務委託などでフリーランスに業務を外注しているスタートアップも多いと思います。フリーランス保護法は、このようなフリーランスと取引のあるスタートアップにも関係する法律であり、例えば、現在使用しているフリーランスとの契約書等の見直し、場合によっては書式等の改定、社内体制の整備等の対応が必要です。
フリーランス保護法の基本的な内容(法律の概要、法律の対象となる当事者や取引の定義や説明、求められる就業環境の整備の内容、違反した場合など)については、下記の記事で解説しております。ご参照ください。
本記事では、上記の記事後にアップデートされた情報も踏まえ、フリーランスに業務を委託する事業者に求められる対応等について紹介します。
フリーランス保護法については、厚生労働省、公正取引委員会、中小企業庁などが、HPにおいて、分かりやすい説明文を掲載したり、ガイドラインやQ&Aなどの資料、事業者向けのチェックリストなどを公開していますので、積極的に活用したいところです。
【厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
【公正取引委員会】
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/
【中小企業庁】
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/law_freelance.html
業務委託期間に応じて、以下の義務や禁止行為があります。
⑴ 取引の適正化のための義務
以下の2つのチェック項目は、業務委託期間の長さにかかわらず適用されます。
☑書面などによる取引条件の明示(法第3条)
以下の条件を明示する必要があります。フリーランスとの取引の際に用いている契約書の書式などに、きちんと以下の条件が明示されているかをチェックし、足りない場合には整備する必要があります。
「業務の内容」「報酬の額」「支払期日」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした日」「給付を受領/役務提供を受ける日」「給付を受領/役務提供を受ける場所」「(検査を行う場合)検査完了日」「(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項」
厚生労働省が契約書の雛形を公開していますので、こちらもご参照ください。
☑報酬支払期日の設定・期日内の支払い(法第4条)
発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払日を設定し期日内に支払わなければなりません。
自社のフリーランスへの報酬の支払時期に問題ないか、確認が必要です。
⑵ 取引の適正化のための禁止行為(法第5条)
フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、以下の7つの行為が禁止されます。
・受領拒否の禁止
・報酬の減額の禁止
・返品の禁止
・買いたたきの禁止
・購入・利用強制の禁止
・不当な経済上の利益の提供要請の禁止
・不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
⑶ 就業環境の整備に向けた義務
☑募集情報の的確表示(法第12条)
業務委託期間にかかわらず適用されます。
☑育児介護等と業務の両立に対する配慮(法第13条)
6か月以上の業務委託において、対応が必要です。後記で配慮の具体的内容を紹介します。
☑ハラスメント対策に関する体制整備(法第14条)
業務委託期間にかかわらず適用されます。後記で体制整備の具体的内容を紹介します。
☑中途解除等の事前予告・理由開示(法第16条)
6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければならず、予告の日から解除日までに理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければいけません。
フリーランスの育児介護等と業務の両立に対する配慮の内容としては、たとえば以下が挙げられます。
(厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A(令和6年9月19日時点)」 問95)
・妊婦健診がある日について、打合せの時間を調整してほしいとの申出に対し、調整した上でフリーランスが打合せに参加できるようにすること
・妊娠に起因する症状により急に業務に対応できなくなる場合について相談したいとの申出に対し、そのような場合の対応についてあらかじめ取決めをしておくこと
・出産のため一時的に委託する事業者の事務所から離れた地域に居住することになったため、成果物の納品方法を対面での手渡しから宅配便での郵送に切り替えてほしいとの申出に対し、納品方法を変更すること
・子の急病等により作業時間を予定どおり確保することができなくなったことから、納期を短期間繰り下げることが可能かとの申出に対し、納期を変更すること
・介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること
以上はあくまで例示であり、具体的にどのような配慮が必要かについては、業務の性質や当事者の状況等に応じて異なりますので、迷われた場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発、相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応などの措置を講じる必要があります。
必要な措置の具体例は以下のとおりです。
・従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う
・ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する
・業務委託契約書に係る書面やメール等に業務委託におけるハラスメントの相談窓口の連絡先を記載する
・フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等において業務委託におけるハラスメントの相談窓口について掲載する
・ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する
フリーランスの方と仕事をする企業にとっては、フリーランスの方が安心して働くことができる環境を整備することによって、多様な人材の確保や活用に繋がり、それが中長期的な事業の発展にもつながります。
フリーランス保護法の施行を一つのきっかけとして、今一度、自社の制度や体制等を見直してみることをおすすめします。対応にあたって不明な点等あれば、弁護士などの専門家にご相談ください(当事務所でも、フリーランスの方と仕事をするにあたって留意すべきことに関して相談対応や、ハラスメント防止のための研修等の対応を行っています。)。
以上